これぞ至芸

マルセル・マルソーというパントマイム・アーティストがいる。私が彼を見たのはテレビでたったの数分。それでもその至芸(としか言いようがない)は今でも目に焼き付いて、鮮烈に覚えている。

 

それは笑った顔の仮面が顔にくっついて取れなくなるという演目だった。顔はもちろん笑ったまま。どんなに頑張っても仮面が外れない。並の役者でも力いっぱい取ろうと努力している演技はできると思う。

 

マルソーの凄いのは見えない筈の仮面の中の疲労困憊、困惑の表情が手に取るように分かること。これは彼のネームバリューで持ち上げているのでもなんでもなく、本当にそう感じた。何しろその時はマルソーの名前くらいしか知らなかったのだ。

 

次に、高倉健さんが非常に感銘を受けた演技として語っておられたのがフランスの名優ジャン・ギャバンの次のシーン。

 

両手に新聞を持ってベンチに座るジャン・ギャバン。当然上半身は影に隠れてほとんど見えない。

 

その新聞の中に、大変喜ぶべき記事を見つけるのだが、新聞は持ったまま。もちろん腕を揺らすような大げさな動きはしない。なのにその喜びようがひしひしと伝わってくるというもの。

 

何という作品だったのか覚えていないのがつくづく残念。知っている方がいれば教えて下さい。