奇妙な経験

他人と比べて特段、幅のある人生を歩んできたが訳ではないが、後になって他の人が滅多に味わうことないような「あれは何だったんだろう。」と考えてしまうような経験がある。

 

1.ゲイとの遭遇

時期と場所はハッキリ覚えている。大学生時代。場所は天王寺ステーションシネマ(今もあるのかな?)。ある程度以上の年齢の方はご存知と思うが昔、映画館は上映毎の入れ替わりではなく、券を買ったらそのまま入場というのが通常。もちろん映画も途中からということになるが、次の回の上映で「このシーンさっき見た」と気付いたら、その場で出るも良し、もう一度最後まで見るも良し。今思えば何とも長閑な時代だったが当時はそれが当たり前で不便を感じたことはなかった。

 

と言う訳で館内も入ってみないと中の混雑具合が分からず、満席なら当然立ち見ということになる。その日も私は立ち見で見ていた。すると…

 

いつの間にか私の隣に立っていた男性、ズボン越しにお尻を触りにくるではないか。最初は何かの間違いで手が触れたのかと思ったが明らかに触りにきている。不思議に恐怖感はなかったが気持ち悪いので数十センチ離れた。するとその男性はそれ以上追ってくることはなかった。

 

ここまでなら、最悪?私の勘違いも考えられる。だが、その回の上映が終わり場内が明るくなり、観客の入れ替えが始まった時、その男性が「前の席が空いたので座りに行きませんか?」と声を掛けてきたので、やっぱり間違いなかったのだと確信した。

 

幸い、結構ですと答えるとそれ以上の強引な誘いはなく一人で座りに行き、本件は落着した。その男性であるが、スーツを着たサラリーマン風、年齢は35歳位、男の私が言うのもなんだが、なかなかのイケメンであった。

 

何故、このことを詳しく覚えているかと言うと、二十歳前後の純真な心なりに、何故このお兄さん、男前なのに誤った道に行ってしまったのかと不思議に思ったこと。そしてもうひとつは、異性に全くモテた経験のない私としては例え相手がホモでも私に好意を抱いてくれたことが単純に嬉しかったこともあったからである。

 

当日のその後、私は何を考えたか。それもハッキリ覚えている。あろうことかお誘い通り、一緒に着席していれば昼飯くらいゴチになれたのでは、などと考えていたのだ。

 

ゴチになれたかも知れない。そして、その後全く違う人生を歩んでいたかも知れない。その結果、どちらが幸せだったかなんて誰にも分からないのである。

 

あと、ふたつみつ奇妙な経験を書くつもりであったが紙数も尽きたので一旦筆をおく。