何故か嬉しい思い出

昨日の大事件はまた触れます。恋愛3も補筆予定です。

 

今まで嬉しかったことは勿論たくさんあったが、少し毛色の違う、しかし、とても懐かしく、嬉しい思い出。

 

それは、中学1年のこと。私の入った中学校は当時指折りの荒らくれ学校で、卒業式が無事終わったということが、地元のニュースで放送されるほど。

 

同学年にもいわゆるワルが何人か居たが、たまたま同じ組にワルの中でもレベルの違うX君がいた。他のワルなど彼に比べれば真面目なお坊っちゃんみたいなものだった。

 

もうすぐ夏休みという頃だったと思う。帰り道、と言ってもまだ校内を歩いていた時、X君から声を掛けられた。

 

彼が言った言葉は今でも覚えている。「お前あまり勉強してるようには見えんのに、勉強できるんはなんでや。どんな勉強やってるのか教えてくれへんか。」

 

確かに少し前の個人面談で男子ではクラスで一番ということは担任の先生から聞いていた。学年全体500人位で25番だった。でも、成績なんて誰にも言わないし、第一、X君も言うように私は全く優等生には見えていたかった筈だ。

 

25番を何故覚えているかと言うと、ホームルームで担任の先生が語った「うちのクラスの女子はまあまあ優秀だが、男子は駄目だ。11クラスある中で男子のトップが25番というのはどう考えても低い。」という話を覚えているからだ。(その25番が私だと知ったのが後の個人面談。)

 

その話を聞いた時、クラスの誰しもが思ったのが「その男子でトップはN君だろうな。」ということ。N君は見るからに真面目で学級委員なども率先して立候補するタイプ。私もそう思っていた。

 

なのに、X君は何故私が勉強が出来ると思ったのだろうか。そして、誰もが一番勉強出来ると思っていたN君に何故聞きに行かなかったのだろうか。

 

X君の質問に、私なりの勉強法を伝授した。例えば問題集をしても、いきなり答えを見るのではなく、分からなかったところは教科書や参考書を見ながらもう一度やってみる、のような。彼も頷きながら聞いていた。

 

今思えば、先生ではなく、同級生に勉強を聞くというのは非常に勇気のいる事だと思うし、それが出来たX君は偉いと思う。そして何より、その聞く相手に私を選んでくれたことは私にとっても大変嬉しいことだった。正直言って、クラス1のマドンナに告られるよりずっと嬉しいことだった。

 

2年生以降、X君と同じクラスになることはなかった。彼は益々ワルになり、3年生の頃の彼を知る者に聞くと、目付きがもはや常人のものではなかったという。

 

卒業アルバムのクラス写真にX君の姿はない。右上に小さな個人の写真で載っている。どこかの施設に収容されたのだろう。

 

もし、私が同じクラスだったら少しでもX君の力になれただろうか。彼も少しは自制してくれていただろうか。

 

確実に言えることは、どんどん道を踏み外していくX君を見ずに済んだことは幸いだったということだ。