昔は高級品

我々がじゃんけんする時普通に使う「最初はグー」の考案者は先日亡くなった志村けんさんとのこと。では、電子レンジを使う時の「チン」はと言うと、シャープの社員らしい。

 

私が小さい頃、電子レンジは堂々たる高級品。今なら1万円以下で買える単機能(暖めのみ)レンジが15-20万円したように思う。もちろん一般家庭がおいそれと手を出せる代物ではなかった。

 

小学生時代、父親に連れられて行った某電機メーカーの展示会。年末だったのだろう。電子レンジのコーナーではレンジでお燗した日本酒を振る舞っていた。タダが大好きだった父親は日頃飲まないくせに美味しそうに飲んでいた。

 

その時言ったお店の方の言葉を覚えている。「これで燗したら一級酒も特級の味になりますよ。」さすがにまだ飲酒の習慣がなかったので「へー、そんなもんかな。でもこれだけ高価な商品ならありかも。」妙な説得力があった。

 

今の私はもちろん違うとハッキリ言える。酒の燗は徳利ごとお湯に漬ける旧来のやり方に限る。チェーン店などは別にしてちゃんとした居酒屋で酒の燗に電子レンジを使っている店はまずないのではないか。

 

当時は高価というだけで皆、有難がっていたのだろう。展覧会などで、これは国宝ですよ、とか作者は運慶ですよと聞かされただけで急に立派なものに見えてくる心理に近い。

 

滋賀県の中でもかなり寒い地域に住んでいた冬の日、家に帰ると真っ先に大き目の徳利に酒を汲み、ストーブの上のやかんに漬ける。すると風呂上りの頃、ちょうどいい燗具合になっているのだ。

 

こうして会社の帰路、冷えて凍えた身体を先ず風呂で外側から融かし、次に酒で内側から融かす。五臓六腑に染み渡るとはこのことかと、どんな安酒でも、それは旨かった。この時だけは寒い地域に住んでいることに感謝!の私であった。