ごちそう今昔

以前、今まで食べた中で一番美味かったのは「クエ雑炊」と書いた。確かに美味かった。あんな美味いもの、滅多にたべられないのは事実だ。しかし、正直に言うと、本当はもっとお下品な食べものが大好きだということだ。上品振ったことを書いてしまったこと、詫びねばならない。

 

以前マツコ・デラックスさんが炊きたてのご飯の釜のまま、生卵をぶっかけ、海苔の佃煮をぐちゃぐちゃに混ぜる。こんな美味いものはないと言っていた。私は試したことはないが、書いていてお腹が鳴ってくる。日本人なら同じだと思う。

 

実は私にも似たような「ごちそう」がある。作り方は簡単、鯖の塩焼きの骨を丹念に取り除き、身を荒微塵状にほぐし、ご飯とかき混ぜる、ご飯は熱くても冷たくてもよい。味付けはお好みで醤油を少々。薬味に大根おろしや生姜がこれまたよく合う。ぜひ試してほしい。

 

昭和40年代の日本のご飯が一番の長寿食と聞いたことがある。よく食べるものが贅沢になったと言われるが、思い返すと確かにそうだ。私の小さい頃、ご馳走と言えばカレーライス、また豚テキなどが思い浮かぶ。反対に今は高くておいそれと手が出ない鰻など、もっと手頃で、買い物に一緒に行った時に焼き鳥風に串に刺した蒲焼きを買ってもらったことを思い出す。

 

豚テキと言っても普通に豚肉を焼いたもの。味付けはとんかつソースのみ。添え物はキャベツと、ウインナー。当時はウインナーも大のご馳走。私はよく豚テキだけで充分だから、ウインナーは別の日に出して欲しいと頼んだものだ。

 

ビートたけしさんが子供の頃、毎日のようにコロッケが出るので思わず「今日もコロッケ?」と不平を言ったら黙って取り上げられて、次の日から家族で、たけしさんだけコロッケが出なくなったという話をされていた。反対に将棋の米長邦雄さんは「これ、好きじゃない。」と言ったら次の日から倍の量を食べさせられたという話をされていた。

 

そう、昔の母親は厳しかった。食べ物の不満など許さなかった。床にこぼした食べ物でも拾って食べるのが当たり前だった。そのお陰か、我々の世代で食べ物の好き嫌いを言う者はほとんどいない。それに比べ、今の親は、自身の娘や甥も含め、「あれを食べさせるな。」とか「これは控えて欲しい。」とかうるさいことこの上ない。親類ながら腹が立つ。私たち夫婦は自分の子供に与えてくれるものに口を挟むことは一切なかった、と言うよりそんな発想がなかった。

 

医学的なことは知らないが、今の子供に偏食やアレルギーが多いのはそんなことも関係しているのではないか。