モノの値段

私が熱心にクラシックを聴き始めた40-45年前、LPレコード1枚の値段は¥2500前後だった。今の価値判断でもけして安くはない。有難いことに廉価盤というジャンルがあり、こちらは¥1000-1500位。学生時代の私は専らこの廉価盤を月2枚のペースで買っていた。初めてCDが売り出されたのは80年代に入ってすぐだったと記憶しているが、何と1枚¥3500-4000!しかも、レコードとは違い廉価盤なるものは当然のことながらない。とてもではないがおいそれと手を出せるモノではなかった。

 

このCDの値段を聞くと驚かれるかも知れないがその品目最初の商品は概ね高価だ。後に100均でも普通に売られることになるカセットテープやビデオテープなど、スタンダードのものでも数百円、高音質、高画質を謳うハイグレードのものだと千円を優に越えていた。

 

最初に買ったCDは今でも覚えている。ワルター、ウイーンフィルのマーラー大地の歌フルトヴェングラーバイロイトの第九(ベートーヴェン)。どちらも¥3500だった。1枚でも充分予算オーバーなのに、2枚同時に買ったのはどちらかを先に買うとこの不朽の名演に順番を付けるようで気が咎めたのだと思う。

 

その後、歳月は流れてCDの値段はどうなったか。輸入盤のCDBOXだと10枚入って¥1000位のものもけして珍しくない。即ち1枚¥100。これには為替なども絡んでいるので一概に言えないが、とてつもなく安くなったものだ。CD発売当時、フルトヴェングラーベートーヴェン交響曲全集を揃えたら2万円は下らなかったものが、今は輸入盤なら千円ちょっとで買えてしまう。

 

安く買えるに越したことはない。その通りかも知れないが、少しばかり複雑な心境になってしまうのも確かだ。余計なお世話かも知れないが、フルトヴェングラーの名前も知らない人が安いからと言う理由で買った。勿論音は猛烈に悪い。今の録音しか聞いたことない人はびっくりする筈だ。それで折角買ったCDはお蔵入り。そしてベートーヴェン、ひいてはクラシック音楽自体に近づくことが無くなってしまう。そんな事態が日本の、あるいは世界のあちこちで起こっているような気がする。

 

実は私20年以上前からヤフオクを利用している。出品者としても、落札者としてもオール「非常に良い」の評価を頂いているが、唯一「どちらでもない」と評価されてしまったのが、1930-40年代録音のCDを出品した時だ。コメントを見ると「安いとは言えこんなに録音が悪いとは知りませんでした。残念です。」録音年代が明記された写真を添付していたのにだ。すかさず反論したが、一度付いた評価は変わらない。今思い出しても腹が立つ。