離婚した友人

86歳の老人が高校生の孫を刺殺。理由は晩酌の相手をしてくれなかったから。誰が考えても胡散臭い。早速週刊誌ではキレる老人という取り上げ方をされていたが、この事件に限らず余程の大事件でない限り事の顛末まで報道されることは稀だ。「まだ訴状を見ていないのでコメント出来ない」、「今後関係者で対応を検討したい」。これで終わっていたら報道ではない。

 

少し前の当欄に日本では4組に1組以上が離婚していると書いた。私の友人を見回しても3人の離婚経験者がいる。私の交友関係はけして広くないので4組に1組はあながち当たっていない訳でない。

 

友人と書いたがその内の1人はここ10年以上全くの音信不通だ。年賀状のやり取りも行っていない。但し大学時代一番会っていた人物でよく二人で奈良の寺社巡りをしたものだ。彼の新旧奥さんに会ったのもそれぞれ1分足らずだったのではあるまいか。そしてこの新旧奥さんが私が見てきた数ある友人の奥さんのワーストとベストだ。

 

彼の前妻と会ったのは彼の自宅。姑と同居だった。コーヒーを出してくれた時に少し話しただけだが美人で愛想も良く、利発。正直、なぜこんな女性が?と軽い嫉妬を覚えたことは正直に告白しておこう。その女性と離婚し、別の女性と再婚したことは年賀状で知った。理由は分からなかったが子供を設けていなかつたのがせめてもの救いだった。

 

何か忘れたが物の受け渡しで久し振りに彼に会うことになった。車で来るというので到着時を見計らって外で待っていると車が到着した。車から降りてきた彼と少し話をしていると、助手席に人影が見えた。「奥さんか?」と聞くと頷いたので挨拶をしようとその方を見ると、軽く頭を下げて目を逸らした。古い表現かも知れないが「あばずれ女」という言葉が頭に浮かんだ。普通なら車から降りてきて「いつも主人がお世話になってます。」くらい言わないか。彼もあまり妻の話をされたくなさそうで「まあまあ」と言ってそそくさと走り去った。

 

何があったのか知らない。彼はその後妻の実家に同居を始め、養子になり、遂には苗字まで妻の旧姓に改名した。一番最後に来た年賀状は何年前か。確か子供も1人か2人いた。居酒屋で偶然出会うようなことがない限り彼と再会することはないだろう。そう言えば彼は一滴も酒を飲まない男だった。もう会うことはあるまい。

 

二人目は今でも付き合いがある。大阪在住なのでそうしょっちゅう会う訳ではないが、今春一緒に九州旅行をしてきた。自らは車は持っていないが運転が大好きでどれだけ運転していても眠くなったり疲れたりしないそうだ。今回の旅行も殆んど彼に運転してもらった。

 

離婚の原因について面と向かって聞いたことはない。但し大体の理由は推測が付いている。具体名は出さないが某化粧品販売の無尽講に奥さんがのめり込んでしまい、家庭を顧みなくなったのが原因だと察している。子供は奥さんが引き取り、両方再婚はしていない。でも夫婦仲、親子仲は悪くないようで娘さんの結婚式に招いてもらい、元奥さんと両親の席に座ったとのこと。面白かったのは相手方(新郎)の親も離婚していて、そのことは当日の親族挨拶で知ったらしい。

 

三人目は今でも頻繁に会っている中学校以来の友人だ。このブログの一番最初の頃、学生時代、硬派でもなく、草食系でもないのに女の子とお付き合いどころか口を効いたこともなかったと書いた。彼もまったく同じ。心の中では人一倍肉を食いたいと妄想しているのに、何故か手を伸ばす勇気がない、絶食を強いられているような状態下に二人とも居た。

 

結婚は彼の方が随分早かった。最初に入った会社で逆ナンされたのだ。やっと与えられた肉、腹ペコの彼には旨いもまずいもなかった。さぞや嬉しかったのだろう。こんなこともあった。丁度その頃彼が新車を買った。早速見に行くと助手席には座らないでくれと言う。最初に座るのは彼女に取ってあるんだ…。あほらし。

 

お付き合いが続き、このままでは結婚、そうなる前に一度見ておかねばとの親心から、私と当稿一人目に紹介した友人とで会食の席を催した。今思えば参加者4人中私を除いた3人が離婚することになるという、何ともシュールな飲み会だった。

 

与謝野鉄幹に「人を恋うる唄」という作品がある。そこで曰く「妻を娶らば才長けて、顔(みめ)麗しく、情けある」とある。私なりの解釈だが嫁さんをもらうなら①頭が良く ②美しい顔立ちで ③心根が優しい とでもなろうか。私もこの唄に順番も含め100%賛成だ。

 

万が一にもこのブログを彼が読む可能性もあるので断わっておくが、人間の価値観は100人100様だし、またそうでなければ困る。女に財力を求める男も居れば、男に可愛さのみを求める女が居てもいい。皆がひとつの価値観に固まったら結婚出来ない男女が世に溢れる。

 

さて、初めて紹介された彼女であるが、上記の唄に当てはめれば②は無回答、③は⭕だが、①はちょっと…というのが正直な感想だった。

 

後日彼に会った時、先ずもう結婚を決めたのか聞いた(いくら私でも結婚を決めていたら何も言わない)。「いや、まだ。」と彼は答えた。私はこのように言ったと記憶する。「性格はいい子だと思う。でも少々大人しすぎるのか、緊張していたのか口数が少なく、ちょっと暗い感じがした。結婚相手にはどうかなあ?」(この時彼女の口数が少なかったのは大人しいからでも緊張していた訳でもなく、ただ頭の回転が遅いだけだと私は見抜いていた。神秘十字線を侮ってはいけない。)

 

彼は「いや、ああ見えても二人の時はよくしゃべるんやで。」と応じた。まずい、やはり結婚するつもりだ。その後まもなくして彼は結婚した。会食を催した二人とも招待された。彼の結婚期間が何年だったか覚えていない。彼は離婚した。2人の子供を嫁に渡して。離婚に至る要因はやはり私の懸念していたことから発していた。その後幾多のドタバタがあったが彼は再婚し、幸せに暮らしている。(今の嫁についてもよく悪態をつくが、本当に嫌いならあれだけ頻繁に旅行に行ったり、外食したりしまい。)

 

私はふたつのことに感謝する。ひとつは私が彼の結婚にイエローカードを出したことを恨んでいないこと。と言うか、むしろ感謝してくれていること。

 

もうひとつは親の交際範囲が広く、色々な人が縁談を紹介してくれることに期待を持てたことだ。もし親のコネに期待できない身の上だったらどうなっていたことか。腐った肉に飛びついて、とっくに中毒死していたかもしれない。