浪越徳次郎さん

日頃から妻や子供に話しているのだが私の死んだ後、大したものは残っていない(多分)ので、捨てるなり売るなり好きに処分してもらえれば良いと思っている。唯一の例外がCDだ。

 

優に1000枚以上保有している99.9%がクラシック。中には少なからぬレアアイテムもある。子供やその配偶者に好きな人が居れば喜んで遺贈するのだが、残念ながら今のところ現れていない。大体、妻にしてからが音楽教師で嫁入り道具にクラシック全集を持って来るくらいなので趣味が合うと期待していたのだが…。花嫁タンス以上に無用の長物となってしまった。(クラシックファンなら分かってもらえると思うがどんな名曲でも好きな演奏でなければ聞きたくないのだ。)今は密かに息子の彼女に期待している。今の若い世代にはCDも既に古いメディアのようだが高級ステレオをお付けする。

 

とか、言いながら私の父親が亡くなった時も膨大にあった書籍の大半は○オフに売り払ったので、大きな顔は出来ない。では父の本を何一つ読まなかっかと言えば勿論そんなことはなくて、標題は私が興味深くよんだ本の一冊の著者の名前である。

 

浪越徳次郎さんと言ってもとうの昔に亡くなった人なので知らない方が大半と思うが、当時は知らない者が居ない位の有名人で、中でも来日中に体調を崩したマリリンモンローに指圧を施したエピソードは最近でもたまにテレビ番組で取り上げられる。

 

読んだのは小中学生の頃だからマッサージに興味があった訳でもあるまいが、節目のコラムに今でも印象深く覚えている話がある。

 

昔ある所に大変姑にいじめられている嫁が居た。仕事はきつく命じられるのにお金は全く自由にさせて貰えない。思い余った嫁は医者の元を尋ねて毒薬を処方してもらうよう頼み込んだ。医者は勿論最初は断わったが、話を聞くと余りにいじめが酷いので、依頼を受けることにした。薬を渡す際、こう言って。

 

「これは徐々に効く毒だから亡くなっても絶対にバレることはないので安心してよい。何かの良薬と言って毎日飲ませなさい。薬がよく身体に廻るよう毎日肩や足を揉んであげると尚よろしい。それとどうせ○ヶ月後には亡くなるのだから何でも言うことを聞いて孝行しなさい。」

 

嫁は医者に言われた通り、薬を飲ませる一方で肩を揉んだり孝行に励んだ。最初は気味悪がっていた姑も段々と心を開き、自分が嫁でこの家に来た時も散々姑にいびられたこと、その八つ当たりでお前(嫁)に辛く当たってしまい申し訳なかった。こんないい嫁に私はなんて意地悪してきたのだろう。どうか許しておくれ。涙を流す姑を見て嫁は慌てて医者の元に駆け込んだ。

 

「先生、すぐにあの毒消しの薬を処方して下さい。あんなよいお義母さんに私はなんて恐ろしいことを企んでいたのでしょう。」

 

医者は言った。「残念ながらそれは無理な相談じゃ。なぜならあれは最初から毒薬なんかではない、ただの麦粉だったんじゃよ。」

 

私は年少の頃にこの話を読んで心の底から感動したのだが、今の若い世代はどうだろう。早速我が子から聞いてみよう。