9秒80

オリンピックについてはまた追々触れたいが全種目中、世界中からもっとも注目を集める男子100メートルについて。表題は金メダルのタイムである。

 

私達世代がオリンピックの100メートルと言えば先ず思い出すのが1988年、ソウルオリンピックベン・ジョンソンの幻の世界記録だと思う。優勝候補ナンバーワンだったカール・ルイスをぶっちぎっての一着には誰しもが度肝を抜かれた。その時の記録が9秒79。勿論ドーピングで抹消されるが、一度目にしてしまった記憶は消せない。今調べたら9秒79を上回る記録が出るのは17年後、2005年であるから如何に飛び抜けた記録だったか分かる。従ってしばらくこれを上回る記録が出なかった時はドーピングの力無しでは抜けないのでは、とさえ言われたし、私もそう思っていた。

 

今回の金メダルタイムが9秒80であるからベン・ジョンソンの幻の記録と大きく変わらない、そして今回はそれほど速いとは思わなかった。何故か。理由は言うまでもない。ウサイン・ボルトである。

 

オリンピック100メートル走で次に衝撃を受けたのは2008年の北京オリンピック、彼が胸を叩きながらゴールした有名なレースである。タイムは9秒69。今回の優勝タイムやベン・ジョンソンの記録よりもコンマ1秒も速い。短距離でこの違いは圧倒的だ。そして翌年9秒58という未だ誰も近づくことすら出来ない大記録を残した。

 

考えればウサイン・ボルトも罪作りだ。一人で世界記録を何十年分も先に進めてしまった。私の生きている間に更に上回る記録を眼にする機会は訪れるのだろうか。