数字のマジック

昭和天皇に戦争責任はあるか。人により意見の分かれる問いであるし、私も答えられるだけの知見は持ち合わせていない。ただ昭和天皇は当時の最高意思決定の場である御前会議に於いて殆ど唯一の理系の発想が出来る人物であり、なればこそ統計データに基づかない所謂根性論には懐疑的であったし、原爆の惨状を見た時「これは只事ではない」という事を直ちに理解し、その事がポツダム宣言受諾に傾く大きな後押しになったという指摘はかなり当たっていると思う。

 

私も進学した学部こそ文系(経済学部)であったものの、中高時の成績を振り返ると一番得意だったのは先ずは英語、次いで数学、国語と理科が同じ位で社会が一番苦手(嫌い)だったことからすると本来は理系人間なのかも知れない。

 

毎週見ている健康番組、今日のテーマは尿に関する悩み。「夜間に2回以上トイレに行く人は1回以下の人より死亡率が2倍。」番組内で普通に話されていた言葉だが、ちと待て。

 

死亡率と簡単に言うが人間だけでなく全ての生き物の死亡率は100%だ。アラン・ドロンも言っていた。

「全てのものが不確実な世の中で死だけは誰にでも確実に起こる唯一の事だ。」

 

どんな基準で2倍なのか。トイレに2回以上行く人とそうでない人、例えば70歳時点で前者の方が2倍亡くなっているのだろうか。もしそうなら明日から意地でも2回目のトイレは我慢しなければ。

 

この2倍の意味は不明だが他にも普通に語られている数字で、よく考えるとおかしいのでは?と思われるものは多い。

 

例えば遺産相続争いの70%が財産3000万円以下の家庭で起こっているなどとというよく聞く例(数字は仮)。普通に聞くと「意外とお金持ちの家は争わないのだなあ。」と思ってしまうが、その前に財産3000万円以上の家が何%あるのか。3000万円以上の家が1%ならその全家庭で相続争いが起こっても全体の件数に与える影響はごく小さいだろう。

 

似たような例に「日本人の二人に一人は癌になる。」という最近(でもないか)、よく聞く話。これは数字上の嘘はないと思うが肝心の何歳以上で癌になるか、の観点が欠けている。

 

私の父が生前、前立腺癌の診断を受けた。その時医師はこう尋ねたそうだ。

「切りますか?切らずに様子を見ますか?」この時父は80歳を越えていた。要は手術してもしなくても余命に大きな影響はないと言うことだ。

 

どうやらそれ程怖れる必要はなさそうだ。

と、思っていたらこんな話が耳に飛び込んで来た。

「日本人全体で癌になるのは二人に一人だが、男性に限ると三人に二人。」

 

統計は要らざる情報まで伝えてくる。