三つ子の魂百まで

私は入社最初の4年で4回転勤した。だからどの事業場に行っても誰が同期か知るのに少し時間がかかっだ。やはり同期同士は話しやすいし、仲良くなりやすい。とは言え大きな会社、同じ部署でもない限りそうしょっちゅう会う訳でもないし、偶にすれ違った際に一言二言言葉を交わすくらいだが。

 

そんなある日、同期のN君がKさんと付き合っているという噂が聞こえてきた。Kさんは当時事業部長秘書。皆さんが秘書と聞いて思い浮かべるイメージそのままの女性で一見おしとやかなおじさんキラー、管理職に取り入るのは抜群に上手い代わりに我々若手社員には能面のような塩対応。「事業部長のご意向です。」が口癖の堪らなく嫌な女だった。いや、隣の部署だったからよく知っている。

 

その噂を聞いて数日後、偶々食堂でN君とすれ違ったので「あんた、Kさんと付き合ってるって聞いたけど本当?」と聞いた。それに対し、いや付き合ってないで。と返事が来たので「そりゃ良かった。あんな女絶対止めた方がええで。」と返すともうちょっと詳しく聞かせてよと言ってきたので喫茶コーナーに席を移し上に書いたようなことをフルスビーチした。

 

ああ、なんたる馬鹿!もし本当に付き合ってないのならKさんがどんな女であろうと関心がない筈。聞いて来たということは付き合ってるということではないか。何故気付がなかったのか!

 

それから数カ月後ふたりが婚約したという話が聞こえてきた。当時の松下電器は家族的な空気が色濃く残る企業風土で職場結婚したらふたりで各職場に挨拶回りするのが慣例となっていた。我々の職場にもN君とKさんのふたりがやって来た。堪らなくなって私はトイレに逃げた。かなり長い目の「用足し」を終えたのに職場に戻るとまだふたりが居る!もう逃げる訳にはいかない。覚悟を決めて席に着くと既に私達の座席への挨拶を終えていたN君がわざわざ戻って来て握手を求めてくれた。事情を知っている人は笑っていたが、他の人達はどんな眼で見ていたのだろう。そこまで目を向ける余裕はなかった。取り敢えずはN君の寛容の精神のお陰で救われた、しかしあれ程バツの悪い思いをしたことはない。

 

あれから30云年、今また自身の発言が元で舌禍事件を起こしてしまった。何を?とてもここには書けない。発言の内容も今回の方がたちが悪い。今N君に会えたら聞きたい。「心の底から私の発言を許した訳ではないだろう?」と。

 

本当に自分で自分が嫌になる。