真に相手を思い遣るとは

松下電器の3代目、山下社長の就任の経緯は社の内外問わずよく知られている。末席の平取締役だった山下氏の自宅にある夜突然電話が掛かってくる。明日(松下幸之助)相談役の所に来て欲しい。何事かと駆け付けるといきなり社長になって欲しいと告げられる。

 

勿論山下氏は固辞する。自信がないし、何より世間が納得しない。そりゃそうだ。当時の事を知らない人にその頃の松下電器がどんな存在だったか理解してもらうのは難しい。余談だが人気絶頂期の沢田研二木村拓哉福山雅治を足したより遥かに凄い存在だったと上手い表現をした人が居たが当時の松下電器も同じ、具体的にどの会社とどの会社を足したとは言わないが。松下の一挙手一投足が社会の耳目を集める、そんな存在だった。しかももし社長になれば現在上席にいる年長、先輩の役員、子会社、関係会社の社長、それらの方全員の上に立つことになるのだ。山下氏の元上司だったある関係会社の社長は言った。「お前、社長になったからといって俺に命令出来るのか。第一、俺はお前の言うことなんか聞けへんで。」

 

他方、相談役、松下(正治)社長からは決めてくれたかと連日督促が入る。気がおかしくなりそうな葛藤の末、受けることを決断した山下氏の元に例の元上司から電話が掛かってきた。「決めたんやな。安心してくれ。俺、お前の言うこと聞くで。」

 

いかん、今書いていても涙が出てくる。大松下の社長ともなれば、まして何人もの年長者を差し置いての就任ともなれば、その辛苦は想像するに余りある。自分の部下だった者にそんな苦労はさせたくない。だからお前が社長になっても指示は受けないよと、なるだけ引止めようした。でも一度決めたのならそれを尊重しよう。昔のサラリーマンにはこんな浪花節精神が息づいていたのだ。

 

こんなことを書いたのも今、息子がひょっとすると結婚するかも知れない相手と交際していることを聞かされたからだ。(表現がおかしいか?どうもこの種の話になると途端に語彙不足が露呈する。息子いわく「結婚を考えない付き合いなんかないやろ。」とのこと。)

 

結婚相手を決めるのに法律上は20歳を過ぎれば誰の承諾も要らない、それは分かっている。私も進学や就職の事なら子供の希望を尊重する。でも結婚となるとそうも言っていられない。聞けば今3組に1組が離婚する時代とか。彼ら彼女の言い分は気が合わない相手と無理に居続けることはない、だろうが本当にそれでいいのか。また、結婚してからこんな筈ではなかった、とならない為に同棲期間を設けるカップルが増えていると言うが、本当にそれで離婚は減っているのか。また離婚という決断をした人のその後の人生がベターなものになつているのか。

 

私、けして友人の数は多くないが友人の離婚率は突出して高い。再婚した者、独身のままの者、色々だがそんな彼らを見ていると勿論、その時は一生懸命熟慮して離婚したのだろうがその後の生活がけしてハッピーに見えない。余計なお世話だが。

 

昔、業務の効率化の為にOA化を進めた筈なのに却って残業が増えたという話をよく聞いた。事程左様に物事は理屈通りには行かないもの。私、恋愛や結婚を語るのにもっとも不向きな人間であることを充分に自覚しつつ下記の私見を述べたい。

 

恋愛期間が、同棲期間が長かったからと言ってその事は結婚生活の幸福に結び付かない。いや、そういう風に結ばれたカップルの方が離婚の危険性が高い。勿論本人同士が1番大事だが結婚のもうひとつの本質、ご近所付き合い、親戚付き合いは結婚しなければ絶対に分からない。

 

誰の言葉か忘れたが「結婚はその人の下のお世話を出来るか、で決めなさい。」全くその通りだと思う。

 

話が逸れた。自分の家族のことに触れるのは難しい。気恥ずかしい。でも私も山下社長の元上司のような役割を果たしたい。あんなにカッコ良く出きる自信はないけど。