規格の功罪

薬師丸ひろ子さんと言えば今の若い人にはおばさん、お母さんのイメージだろうがデビューした頃の、あの希少な宝石に触れるような印象はその後比べられる存在が見当たらない。何しろ滅多に見れない(テレビや雑誌に出ない)ことが却って価値の向上に繋がっていたのだから。

 

デビュー作の「野性の証明」で共演した高倉健さんの「なんと言うか僕が彼女のファンなんだよなあ。」という言葉も彼女の希少性をより高める一因となった。あの健さんがそんなことを言ったのか、と。

 

私たち世代にとって薬師丸ひろ子さんと言えばTechnicsのCMも思い出深い。何かいいネタはないか捜していたらこれ以上ない、格好のページが見つかった。

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貴重な思い出話有難うございます。

 

私が松下電器のステレオ事業部に配属された時はちょうど彼女との契約期限が切れた頃で販促物やカタログからも姿を消しつつあったが、彼女にとってもTechnicsにとっても幸せな時代だったのだろう。先輩社員から聞いた話だが同業他社から薬師丸ひろ子のポスターだけ譲って欲しいという依頼がよくあったそうだ。お客様がステレオを買う代わりにポスターを欲しいと駄々をこねたのだ。当時の宣伝担当部署はさぞや鼻高々だったに違いあるまい。(この時の宣伝担当部署のひとりが漫画、課長島耕作のモデルであるHさん。)

 

 

今日久しぶりにレンタルビデオ店を訪れた。ほんの2、3年前まで妻や子供に頼まれて借りてはコピーして渡すことが多かったが、そんな依頼も今は昔。言うまでもなく動画配信の普及によるものだ。レンタルだと返しに行くのが面倒だと言う。それもあって今レンタルビデオ店は苦境に立たされている。そんな店を訪れて驚いたのはTVスティック(動画配信用の機器)が売られていたことだ。本来であれば自分たちの仕事を奪った憎い存在の筈。それでも店頭に置かなければならない程に彼我の力に差が付いてしまつたのだろうか。それはちょうど薬師丸ひろ子のポスターを欲しいと電話をしてきた他社の姿にダブって見える、といえば言い過ぎだろうか。

 

古くは家庭用録画機としてVHSと覇を争ったベータ、DVDの後継としてブルーレイと争ったHD-DVD。オーディオの分野でもカセットの後継候補としてLカセットやミニディスク(MD)、DATが現れては姿を消していった。中でもVHSとベータの規格争いは今でも語り草になるほど歯列を極めたものだったらしい。争いに敗れてVHSビデオを作らざるを得なくなった当時のソニー陣営の心中や如何ばかりだったであろうか。

 

TechnicsのCMに薬師丸ひろ子が出ていた頃、他社も当然それなりの宣伝活動をしていた筈だ。それなのにお前ところのステレオを買ってやる代わりに薬師丸ひろ子のポスターをくれと言われた。宣伝担当者はどれほど悔しかったことか。

 

元製造業に身を置いた者として、どうしてもそこまで考えてしまう。