二人のM君

無芸大食(ついでに大飲)を絵に描いたような私であるが、それでも趣味といえるものはいくつかあって、その代表がオーディオとクラシック音楽である。

 

その二つの趣味を私に教えてくれたのは何れも中学時代に知り合った、期せずして同じイニシャルの二人のM君である。

 

中1の時に知り合ったM君はひとりっこで非常に大事にされているお坊ちゃまという感じであったが嫌味のない、素直な性格ですぐに意気投合した。M君の家も部屋もけして大きくはなかったが、その部屋に鎮座していたのがアンプ、スピーカー、プレーヤー、FM/AMチューナー、カセットデッキから成る今でいうコンポーネントステレオである。今、それらの品番は詳らかに覚えていないがスピーカーが間もなくビクターのSX-3にグレードアップされたことはよく覚えている。

 

初めて聞いた本格オーディオの感想は音がいいとか、生々しいとかではなく、「あっ、このレコードにはこんな音が入っていたんだ。こんな楽器が使われていたんだ。」という家のステレオでは聞こえなかった音を見つけたことの驚きであった。

中学卒業以来、一度も会っていないM君。今でもオーディオをやっているだろうか。

 

一方、中学3年で知り合った私にクラシック音楽を教えてくれたもう一人のM君は今でも交友が続いており、というより一番の呑み友達でもある。自分から触手を伸ばしたオーディオと違い、クラシックはM君とのレコードの貸し借りが興味を持ち始めたことがきっかけになった。

私はビートルズサイモンとガーファンクル他のレコードをM君に貸し、彼から運命、未完成、新世界などの人気曲のレコードを借りた。(その頃の私は少しおませで同世代の友人の中で一足早く深夜ラジオなどを聴いていたのでポピュラー音楽なども結構詳しく、レコードもそこそこ持っていた。)

 

今や、千枚以上のCDを保有しているが最初に買ったレコードはよく覚えている。

それはカラヤン指揮フィルハーモニア管弦楽団の運命/田園である。M君は運命/未完成ならワルターの名盤があると奨めてくれたが、当時の私には未完成がどうにも退屈な曲に聞こえ、未聴のカラヤンを買った。結果は運命/田園どちらの演奏も好きになれず、下手をすれば私のクラシック趣味はここで終わっていたかもしれない。

 

私の真のクラシック開眼はたまたま耳にした、ワルターの2枚組LPレコード(運命/未完成/田園)。特に田園は演奏によってこんなに違うものかと心底仰天した。(私が後にお世話になるテクニクス松下電器)の往年のキャッチフレーズに「感性の鋭い時にこそいいものに出会いたい」というのがあったが、この時にワルターの田園に出会えたことは本当に幸せなことであった。)

これ以来、名曲・名盤を追い求める私の旅は45年以上続いているのである。