新プロジェクトXが心に響かない

ある友人が言った。

ビートルズには数多くのヒット曲があるが、イエスタディが段違いに名曲過ぎて他の似たような曲、ミッシェルやアンド・アイ・ラヴ・ハー、エリナー・リグビーらが皆イエスタディの亜流のように思える。」

なかなか傾聴に値する意見だと思う。

 

20世紀最後の年、2000年に放送が始まったプロジェクトXは素晴らしい番組だった。(個人的にはVHSビデオを取り上げた日本ビクターの回が特に印象深い。最終完成品を見た松下幸之助氏の「ソニーは100点のものを作ったが、あんたらは120点のものを作ったな。」のセリフには泣いた。)

 

その影響は他の局、番組に及び、似たような番組が雨後の筍の如く現れた。今も放送されているテレビ東京カンブリア宮殿ガイアの夜明けなどはプロジェクトXの「亜流」と言って差し支えない。

 

そのプロジェクトXが19年ぶりに新プロジェクトXとして復活した。https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/original.html?i=41806

記念すべき第一回のテーマは東京スカイツリー。勿論見た。だが、何だろう、いまひとつ心に響かない。前番組の東京タワーの回にはあれほど感動したのに。

 

キングコングは何回も映画化されているが1933年の第一作に続く第二作が作られたのは43年も後の1976年だった。そして第一作であれ程大暴れしたキングコングが第二作ではアメリカの空軍機にあっさりと倒されてしまう。それも当たり前、この間の軍事技術、兵器の破壊力の進歩は凄まじいものがあり、もしキングコングが最新の兵器にもへっちゃらだと却って不自然に思えてしまっただろう。

 

東京スカイツリーは東京タワーの2倍近い高さがある。でもこの間の建設機器、技術の進歩はその比ではあるまい。少し前までテレビ電話、まして海外の人との通話など夢のまた夢でしかなかったが今はネット回線を使って一般家庭の誰でも可能になった。東京タワーが建った頃は白黒テレビの普及率がやっと9割近くなった時期、その頃の人が仰ぎ見た東京タワーと現代の人が見る東京スカイツリー、どちらがより驚きの目を持って迎えられたか考えるまでもあるまい。

 

静岡県知事の入庁式での発言。その後のニュースでは省略されることが多いが野菜を売ったり、牛の世話をしたりに続けて彼はこう言っている。「モノを作ったりする人とは違い」。そう、彼の頭ではものを作っている人(製造業)も低知能ということなのだ。

 

野菜や家畜を育てたり、モノを作る、そんな汗水流す仕事より机上でパソコンを操っている仕事の方が上等、つまりそう言いたいのだろう。彼はこの発言について謝罪はするが撤回はしないと言った。本音でそう思っているということだ。

 

この発言、公人たる知事がしかも公の場所で言ったのだから弁護の余地はない。しかし世間一般の風潮も汗をかいて銭を稼ぐより、パソコンひとつで稼ぐ仕事の方により価値を見出していることも背景にあるのではないだろうか。

 

投資で何十億、何百億と稼いだ人は何人もいるだろう。YouTubeで億万長者になった人も沢山いると聞く。現に子供のなりたい職業にユーチューバーがランクインしている。でも彼らをプロジェクトXのサブタイトルである「挑戦者たち」と呼んでいいものか。

 

僅か20年余りで日本人も大きく変わってしまった。