昔の人のほうが美味しいものを食べていた

テレビ番組の制作に困った時、テーマに選んでおけば間違いない(大コケしない)のはペットとグルメだという。そのせいか特にBSにはグルメ、特に飲み歩きの番組がやたらと多い。紹介される店は勿論東京中心。例えば日本中どこで穫れた魚でも1番良いものは東京に行ってしまうので本当に旨いものは東京でなければ食べられないとはよく聞く話だが本当にそうだろうか。勿論私はそれ程味が分かる方ではないし、質より量、味より値段の人間であることは充分に自覚しているが、3年前、福岡の屋台で食べた明太子の天ぷらには心底仰天した。丁度コロナ真っ最中で開いている屋台はほんの数件、私達の入った店は40歳位の女性がひとりで切り盛りしていたが旨い尺度のスタンダードが異なっていた。東京大阪の旨いが化粧の上手さを競っているとすればここの旨いはすっぴんの美しさで勝負している、そんな気がした。テレビ番組で食べ歩きする芸能人の中にも北海道や九州の人はたくさん居るのだから「この程度の味ならうちの地元なら大衆食堂でももっと旨いですよ。」くらい言ってやれば面白いのだが。

 

真にいいものは大都会より地方の方が、現在より昔の方が食べていたのではないか、そう考えていたら恰好の本に巡り会った。https://www.daiwashobo.co.jp/book/b621780.html

この本の主題である海外の食卓事情も面白かったが日本の食事情の変遷の話が殊の外興味深いものがあった。例えば野菜。著者の言葉を借りれば昔の野菜は調理に10の手間がかかるが味も10だったのに対し、今の野菜は手間が3になった代わりに味も6になっているという。実に上手い例えだ。

 

もう手元にないが昔愛読していた美味しんぼにも確かこんなセリフがあった。

「よしてくれよ。天ぷら、寿司、そば、うなぎ。昔の最高の味を知っている者からすれば全部悲しくなるだけの代物さ。」

 

野菜は確かにそうかも知れないが魚は違うだろうって?魚も乱獲の影響でどんどん小ぶりになっている。今日の読売新聞コラムにもあったが昔居酒屋で出て来たホッケはひとりでは食べ切れないほど巨大だった。サバも昔はもっと油がのって味が濃かったように思う。私自身振り返っても子供の頃はご飯に塩サバがあれば充分なおかずだった。

 

加工食品はもっと酷い。私が小学生の頃、近所の川やお城の堀に釣りに出掛けたが餌は市販のうどん玉で充分だった。何年か前、久しぶりに釣りをする機会があった時うどんを持って行ったが振り向きもしてくれなかった。魚はきっと小麦の変化や添加物を敏感に感じ取って食べなくなったに違いない。

 

そんなことも知らずに昔の人は質素な食事しか食べられず可哀想だとか、グルメだ飽食だと言っている現代人が1番バカなのだ。