どちらが、良いのやら

私の会社員時代の同僚で自殺現場に出くわした人がいた。いつも通りの朝の散歩中、公園の木で首を括っていたらしい。時間にしてほんの数秒の出来事だが一生忘れることが出来ないだろうと話していた。

 

俳優の渡辺裕之さんが縊死した。一部のニュースでは自宅で倒れているのを家族が発見したなどと、それだけ聞けば病気か事故か分からない言い回しをしていたが、その直後に心の相談ダイヤルの案内などをするのだから何のために持って回った言い方をしたのか分からない。

 

渡辺裕之さんと言っても熱心な阪神ファンだったという以外、特に知っていることはない。むしろ奥さんの原日出子さんが我々世代には結構人気があり、ヌードカレンダーが欲しいだけのために飲みもしないカティサークウイスキー)を買ったこともある。壁に貼るなんてもってのほか、大事にしまっていたがいつの間にやら行方不明。

 

変わり果てた渡辺裕之さんを発見したのは原日出子さんか。他人のそれを数秒見ただけで一生忘れられないというのだから原さんのショックたるや如何ばかりか。

 

桂ざこばさんが桂米朝さんに弟子入りのお願いに行った時、親御さんはどう言っているのか聞かれ「父は自殺しました。」と答えると米朝さん、深い溜息をつきながら

「自殺か。人間最後のわがままやな。」

とおっしゃったとか。

 

「医師の一分」などの著書で知られる里見清一氏は救急救命医だった頃、同じ程度に救える可能性のある患者が運ばれてきた場合、第一に優先するのは労災事故の被害者、最後に廻すのは自殺を図った人だと言っていた。

 

自殺というとギリギリまで追い詰められた可哀想な人、という先入観で見てしまうが上記おふたりのような考えもあるのだ。確かに先日のフェリー事故や脳、心臓などの突発の病気で亡くなる人の方がお気の毒と言えばそう思える。

 

多額の借金を背負った末期の癌患者が保険には勿論入れない、自殺も一定期間出ないがその間に亡くなるかも知れない。どうしても子供に負債を残したくないこの人が最後に思い付いたのが事故率の高い飛行機の搭乗巡り。実話だったか映画だったか。最後にどうなったか残念ながら覚えていないが、これ以上の悲劇はないだろう。

 

結局、我々凡人は普通に病気になって何日か寝て亡くなるのが一番幸せか。