新年度初日

「ベンツ・ダンヒルテクニクス

松下電器の音響グループ担当、藤岡取締役は誇らしげに我々新入社員に語った。(テクニクスとは松下電器のオーディオ用ブランド名。当時はオーディオ全盛期で、どの電機メーカーもオーディオ用の別ブランドを持っていた。東芝∶オーレックス、日立∶ローディ、三菱∶ダイヤトーン、シャープ∶オブトニカ、三洋∶オットーのように。その中でもテクニクスの存在感は際立っていた。)

 

「ヨーロッパでテクニクスといえばベンツやダンヒルと並ぶ人々の憧れ、ステータスシンボルになっています。」

 

この言葉、けして対内向けの作り話ではない。その頃欧州で発売された「オーディオ100年」という記念冊子の表紙を飾ったのはエジソンの発明した蓄音機とテクニクスの最高級オープンリールデッキRS-1500U(愛称U38)であった。原点の蓄音機から100年経ってここまでオーディオは進歩した象徴の機械として表紙に採用されたのだ。

 

京阪電車土居駅から歩くこと数分、その名も守口市松下町にステレオ事業部はあった。朝日を浴びてTechnicsの文字が金色に輝く建物に入って行くだけで誇らしさが胸いっぱいに広がった。

 

今日4月3日は各社で入社式が行われる日だ。松下電器のような巨大な会社では社長や会長のお話が直接聞ける滅多にない、いやほとんどの社員にとって最初で最後の機会だろう。私も社長とは何回か接近遭遇したが直接話をする機会は遂になかった。

 

ある人が歩いているとレンガを積んでいる青年がいた。何をしているのが聞くと「ご覧の通り、レンガを積んでるだけですよ。」青年はさもつまらなさそうに吐き捨てるように答えた。更に歩いていると又レンガを積んでいる青年に出会った。同じ質問をすると「僕は大きな大きな壁を作っているんです!」青年は目を輝かせながら張り切って答えた。

 

この二人の青年のやっていることは同じです。でも心掛けひとつで何年か後の結果は大きく変わってきます。皆さんも職場への配属直後はこの青年と同じくレンガを積むような業務を命じられるかも知れません。でもどうか後者の青年のように大きな希望を持って職務に取り組んでください。

 

40年も前だが当日の社長のお話を覚えている。私も相当感激していたのだろう。

あー。あの日に帰りたいなぁ。もし帰れたら?いや、きっと同じ過ちを繰り返すか。

 

閑話休題。新年度初日は多くの人にとって心機一転張り切って行こうという希望溢れる日である一方、一部の人には失意と絶望の始まりの日でもある。意に沿わない転勤、職場異動を命じられた人、出世争いのレースで同期に負けた、後輩に抜かれた人。等々

 

JRきのくに線で人身事故

https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20230403/2000072459.html

詳細は報じられていないが、電車に飛び込むのを見たという目撃者の書き込みがあるらしいのでほぼ自殺に間違いないだろう。新年度の初日に、しかも電車への飛び込みという遺族にも大変な迷惑の掛かる方法で・・・。

 

もっとも当の本人はそんな後に起こる事態など想像出来るような精神状態ではなかったのだろう。私も新年度初日を嬉しい気持ちで迎えたことはほとんど無いので気持ちは痛いほど分かる。亡くなった方にはお悔やみ申し上げる、としか言いようがない。ただこの人の行為によって関係のない多くの人の門出にまで多大な迷惑を掛けてしまった。そのことだけは肝に銘じて反省して欲しい。