同性愛者遭遇記

友近さんが学生時代の恩師について語っていた。何をやっても怒らない温厚そのもののその先生が一度だけ修学旅行で皆でふざけてバスガイドさんを泣かせたことで涙を流して怒りを露わにしたことがあるという。

「君達の一生の思い出作りのお手伝いのために一生懸命準備してきてくれたのにろくに話も聞かないで泣かせてしまう。そんな人の真心の分からない人間になって欲しくない!」

 

手元に小学校の卒業記念詩集がある。そこに掲載されている私の詩は全国紙にも載った名作だ。どうも私は人生のかなり早い時期に才能を使ってしまったらしい。まあ、それはさておき。同じクラスの女子生徒に「六年二組」と題する詩があり、それを読むと我々のクラスも修学旅行でガイドさんを泣かせたらしい。当たり前だが全く記憶がない。

 

想像だが当時は中卒で働くことも珍しくない時代、ガイドさんも私たちとそう年は離れていなかったのではないか。私はけしてワルではないがふざけるのは、特に小学生時代は人一倍だったから泣かせてしまった責任の一端はかなりの確率であるたろう。ああ、何と言う罪作りなことをしてしまったのか!

 

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何を隠そう、私は若き日(大学生時代)に同性愛者と思われる男性と遭遇したことがある。場所は天王寺ステーションシネマ。200〜300円の低料金で名画2、3本立てが見られるので結構よく通ったし、実際いつ行ってもよく混んでいた。

 

その日も満席だったので後ろの壁にもたれて立ち見していると、お尻に何かが触れている感触がした。最初はまさかそれが人の手とは思わずカバンか傘が触れたのだろうと隣を見るとスーツを着た男性。暗いのでそれ以上のことは分からなかった。カバンも傘も持っていない。するとあれはやはりこの男の手か?

 

ここでその男がこちらに向かってニヤリとでも笑い掛けて来たらそれこそ心の底から肝を冷やしただろうが、ずっと前を向いたままスクリーンを見ている。やはりさっきのは勘違い、偶々手が触れただけだろう。でも薄気味悪いことは間違いない。私は20-30センチ、靴一足分位身体を横にずらした。しばらくすると・・・やはり触られている!

 

「何やってるんですか!止めて下さいよ!」

叫ばなかったのは映画館という静かな環境であることに気を遣ったのと、他に大勢人が居る中であること、それと私自身若かったので万一の事態になっても何とかなるだろうという自信であまり恐怖感を抱かずに済んだからだと思う。

 

それで私は思い切って数メートル、間に人が入るほど、その男から離れた。さすがにそこまで追って来なかった。それにしてもあの男は何だろう。ホモか?(当時はLGBTなんて言葉はなく、男の同性愛者は専らホモと呼んでいた。)でも、万、万が一私の被害妄想ということもある。ホモなんかそんなに居ない筈だ。第一、ホモに目を付けられたなんてけして名誉なことではない。

 

私の微かな勘違いかも、という希望が打ち砕かれるのに時間は掛からなかった。その映画が終わり館内が明るくなり、客の入れ替えが始まった。私も何処かに空き席が出ないか捜していると、その男が声を掛けてきた。

「あそこの席が空いたようなので座りに行きませんか?」

 

私はこの時初めて男の顔をハッキリと見た。以下、当時の記憶だが年齢は30代前半、中肉中背、顔はむしろ、と言うかかなり整った面立ち。その時の正直な感想を言うと、こんな女の人にもてそうな人が何故?というものだった。これも当時の世間の、と言うか私の勝手な思い込みだが女に相手にされない男が同性愛に走ると思っていたのだ。実際、一夫多妻制度が認められている中近東の国々では女性にあぶれた男たちの同性愛者が増えていることが問題になっていると聞いていたし。

 

えっ、お前も中近東に生まれなくて良かった?ほっとけ。

 

これでこの男が私に目を付けていたことに疑いの余地はなくなった。「いえ、結構です。」そう返すと男は残念そうな表情を浮かべながらひとりで席の方に歩き去った。

 

以上が私の同性愛者遭遇記である。

 

今、ジャニーズ事務所が故ジャニー喜多川氏の性加害問題で揺れている。聞けば年長の被害者は70代の今もその時のPTSDが抜けず、薬が手放せない状況とか。密室で、しかも相手は自分が就職を希望している事務所の最高権力者、抗える訳もないし、万一抗って裁判沙汰になっても社会的信用が違い過ぎ、けして公正な争いになるとは思えない。

 

私も立ち見だったから良かったものの、もし偶々座った席の隣に同性愛者が居て悪戯してきたら、それも満席で動けない、映画上映中なので声も出せない状況だったら、と考えるとけして他人事とは思えない。

 

勿論一番悪いのは喜多川氏に違いないが、この期に及んでもまだ知らなかったと言い張る所属タレント、そしてそれ以上に許せないのはこうなることを予測していたのか、ここ何年かにバタバタと退所して全くの余所事のような振りをしている奴らだ。

 

お前たち、絶対いい死に方をしないからな!