長女のこと

今考えても分からない。まだ長女が10歳になっていない頃だと思う。妻が掃除機を掛けているのに、マンガに夢中になって動こうとしない長女の襟首を掴んで動かそうとした。私は横に座っていたが、視界から一瞬で彼女の姿が消えたので慌てて後ろを振り返ると茫然とした顔で座っている長女がいた。

 

物凄い怪力の人間であれば、子供の首根っこを掴んで持ち上げることは可能だろう。しかし、掴まれた方は滅茶苦茶に痛いだろうし、もし服の襟を掴んでいたら服に大きな乱れが残るし、第一首が絞まってしまう筈だ。

 

しかし、この時目の前で起こったことはそのどちらでもない。妻は普通に長女の襟を掴み動かそうとしただけ。それに対し長女は自ら動いた訳ではないのに気が付けば1メートル近く後方に移動していたのだ。

 

嘘ではない。この直後から本件について何回も長女と話しているが、彼女も何か分からない内に移動していたことを認めている。なんでも襟を掴まれたと思った瞬間、身体がふわっと浮かんだそうだ。

 

YouTubeで気功や合気道の達人が軽々と相手を投げ飛ばす動画を見ることができるが、しかし如何な達人でもこの時の妻には到底敵わない。

 

長女が絡む不思議な経験はこれだけではない。マンションに住んでいた時のことだ。今思えばさもしいことだが、毎月古紙の集配日の早朝に長女と集配車が来る前にめぼしいものはないかチェックすることが習慣になっていた一時期があった。結構最新のアニメや週刊誌が捨てられているのだ。放っておく手はない。


その日も早朝、長女と古紙の集積場で何かいいものないか物色していると数十メートル先に1台のトラックが見えた。運転席には男性と娘らしき小さな女の子。父親の仕事は古紙回収業に思えた。市の車が回収に来る前に勝手に持って行く車は珍しくない。


当時私達の住んでいたマンションの隣にも同じ位の大きさのマンションがあり、彼らの車はそこに停まった。先ずそちらの古紙を積むのだろうと思った。それから、ほんの数秒後のことだ…。


彼らの車がたった今停めた正反対の方向からこっちに向かって来るではないか!一瞬のことで訳が分からなかったが、少なくとも我々の前を通ってはいない。第一数秒でこれだけの距離を移動できる筈がない。例えウサイン・ボルトが運転していても絶対不可能だ。狐につままれた思いはあったが危害を加えられた訳でもないのでそれ以上のことはないのだが、未だに不思議でならない。


何故、長女といる時に限って不思議な現象が起こるのか。多分二人ともオカルト、超常現象が好きだからに違いない。


考えられるとすれば、テレポーテーションだが。(★)この言葉は藤子不二雄先生の「21エモン」という作品で覚えた。関心があれば調べて下さい。